
はじめに:なぜ「プロトコル」の理解が重要なのか
現代のデジタル社会では、Webサービスやアプリケーション、クラウドシステムなどが日常的に利用されています。これらの裏側では、コンピュータ同士が常にデータをやり取りしています。この通信を正確かつ安全に行うために欠かせないのが、「プロトコル(Protocol)」と呼ばれる技術的なルールです。
AIやDXの導入が進む今、アプリ開発や業務改善に携わるうえで、プロトコルの基本的な理解はとても大切になってきます。とはいえ、最初は「難しそう」と感じるかもしれません。そこで本記事では、プログラミング初心者の方、エンジニアとしてデビューしたばかりの方、そしてDXに取り組む市民開発者の方に向けて、プロトコルとは何かをできるだけやさしく、わかりやすく解説していきます。「これからのスキルアップの土台作り」として、一緒にプロトコルの基本を押さえていきましょう。
プロトコルとは?
プロトコルとは、簡単に言えば「コンピュータ同士が通信するためのルール」です。たとえば、人と人が円滑に会話を行うためには、共通の言語や会話のルールが必要です。同じように、コンピュータ同士も、正しく情報をやり取りするためには共通のルールが必要です。このルールを体系化したものが「プロトコル」です。プロトコルは、情報をどう整理して送るか、どう受け取るかといった細かなルールを定め、コンピュータ同士のスムーズな通信を支えています。
プロトコルはなぜ生まれたのか?
では、そもそもなぜプロトコルが必要になったのでしょうか?その理由は、コンピュータ同士がネットワークを通じてデータをやり取りする必要性が高まったからです。もともとコンピュータは、それぞれが独立して動作していました。しかし、時代とともに、複数のコンピュータをつないで情報を共有するニーズが急速に高まりました。
特にインターネットが普及し始めた1990年代以降、「どのコンピュータとも正しく通信できる仕組み」が強く求められるようになりました。しかし当時は、メーカーやシステムごとに通信のやり方がバラバラだったため、うまくデータをやりとりできない問題が発生していました。(例:A社のパソコンとB社のパソコンでは、ファイルの形式や順序が違い、正しく受信できない…など)
そこで登場したのが「共通のルール=プロトコル」です。どのメーカーの機器でも、どんなシステムでも、同じルールに従って通信すれば理解し合える。これが、プロトコルが誕生した最大の理由です。
現在では、Webページの閲覧から動画視聴、クラウドサービスの利用まで、あらゆる場面でプロトコルが活躍しています。プロトコルがあるからこそ、異なる機器やサービスがシームレスにつながる世界が実現しているのです。
よく使われるプロトコルの種類と役割
プロトコルにはたくさんの種類があり、それぞれ違った役割を持っています。ここでは、代表的なプロトコルとその役割をわかりやすく紹介します。
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HTTP(HyperText Transfer Protocol)
Webページを見るときに使われる通信ルールです。URLの先頭に「http://」と表示されるものが該当します。
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HTTPS(Hypertext Transfer Protocol Secure)
HTTPに暗号化の仕組みを加えたものです。個人情報やクレジットカード情報を守りながら通信するために使われ、今ではほとんどのWebページがこの方式を使っています。
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FTP(File Transfer Protocol)
サーバー同士でファイルをやりとりするときに使われるプロトコルです。たとえば、Webサイトを更新するときなどに活躍します。
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SMTP / POP / IMAP
メールを送ったり受け取ったりするときに使われるプロトコルです。現在のメールサービスの基盤になっています。
このように、目的に応じたプロトコルが使い分けられて、コンピュータ同士がスムーズにやりとりできるようになっています。
身近な事例から理解するプロトコル
プロトコルは、私たちが普段使っているサービスの中にもたくさん使われています。
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Web会議ツール
例:Zoom、Teamsなど
映像や音声をリアルタイムでやり取りするために、RTP(Real-time Transport Protocol)やSRTP(Secure Real-time Transport Protocol)といった通信プロトコルが使われています。
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メッセージアプリ
例:LINE、Slackなど
テキストメッセージやスタンプ、画像などを素早くやりとりできるように、HTTPSやWebSocket(リアルタイム通信に使われるプロトコル)が活用されています。
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オンライン決済
クレジットカード情報など大切なデータを安全に送るために、TLS(Transport Layer Security)という暗号化プロトコルが使われています。これはHTTPS通信の中でも特にセキュリティを強化するための重要な技術です。
このように、プロトコルは一般のユーザーが意識せずとも、日常的なデジタル体験を支える基盤技術となっています。
プロトコルの仕組み:どのように通信が成り立つのか
通信が正しく行われるためには、送信側と受信側の両方が同じプロトコルに基づいてデータをやり取りする必要があります。送信側は、データをプロトコルに従ってパケット化(通信しやすい小さな単位に分けること)し、受信側はそのパケットを正しく読み取って、元のデータに復元します
イメージとしては、「共通の言語で手紙を書くこと」に近いです。たとえば、相手が英語しかわからないのに日本語で手紙を書いても意味は伝わりません。また、宛先を書いていない封筒は、内容が完璧でも相手には届きません。これと同じで、コンピュータ通信でも、使う言語(プロトコル)や送信ルールが一致していないと、情報は正しく届かないのです。
このように、通信を成立させるには、データの形(フォーマット)、順序、手順といった「共通のルール」が欠かせません。そして、これを取りまとめているのが「プロトコル」なのです。
アプリ開発現場でのプロトコルの活用
プロトコルは、アプリ開発の現場でも欠かせない存在です。たとえば、Webアプリケーションでは、サーバーとのデータのやり取りに「API通信」を使います。ここで活躍しているのが、HTTPプロトコルです。
また、IoTやAIといった先端技術の分野でも、さまざまなプロトコルが活躍しています。たとえば、MCP(Model Context Protocol)という新しいプロトコルは、AIモデルとその状況(コンテキスト)をつなぐ役割を持っています。
開発に関わる人がプロトコルを理解しておくことで、仕組みへの理解が深まり、よりスムーズな開発と運用が可能になります。しかし、プロトコルを正しく活用するためには、単に「使う」だけでは不十分です。仕組みそのものを理解しておくことが、より確実な開発・運用につながります。
そこで次のセクションでは、開発においてプロトコルの理解がなぜ重要なのか、具体的なメリットとあわせて詳しく解説していきます。
開発においてプロトコルの理解がなぜ重要なのか
Webアプリケーションや業務システムを開発するとき、プロトコルの存在は避けて通れません。 プロトコルの仕組みを理解していると、次のようなメリットがあります。
1. エラーの原因を正確に特定できる
開発中に、「APIとの通信がうまくいかない」「外部サービスとの連携が失敗する」といったトラブルに直面することはよくあります。こうした問題の多くは、「通信ルール(プロトコル)を守れていない」ことが原因です。
プロトコルの基本を理解していれば、「どこでルールが守られていないのか」「送信形式は正しいか」「レスポンスの解釈に誤りがないか」といった点を論理的にチェックできるようになります。
2. より安全な設計ができる
セキュリティが求められる場面では、暗号化通信や認証のプロトコル(例:HTTPS、OAuthなど)を適切に選定・設計する必要があります。これらの仕組みを「なんとなく使う」のではなく、仕組みを理解して正しく使うことで、システム全体の安全性をしっかり高められるようになります。
3. 他のエンジニアと共通言語で会話できる
開発プロジェクトには、たくさんのエンジニアが関わります。通信方式(HTTP、WebSocket、MQTTなど)が違えば、設計の考え方も変わってきます。プロトコルの基本知識を持っていれば、 「なぜこの設計にしたのか」「この方式を選んだ理由」など、チーム内で設計意図をスムーズに共有できるようになります。
4. サードパーティサービスやAPIとの連携がしやすくなる
近年では、外部のAPIを活用した開発が一般的になっています。こうしたサービスとの連携も、すべてプロトコルの上に成り立っています。たとえば、REST APIを使用する場合はHTTPプロトコルの理解が、リアルタイム通信を行う場合はWebSocketの理解が、それぞれ不可欠です。プロトコルを理解していれば、APIドキュメントを読み解く力や、正確な実装力も自然と身につきます。
プロトコルの階層構造について
ここまで、プロトコルがどのような目的で使われているのか、そしてそれを理解することで開発現場にどんなメリットがあるのかを見てきました。ただし、プロトコルはひとつの仕組みだけで完結しているわけではありません。
たとえば、Webサイトを閲覧する、メールを送るといったひとつの通信の裏側では、複数のプロトコルが階層的に連携しながら動いています。この「階層構造」の考え方を知っておくと、通信の全体像がよりクリアにイメージできるようになります。たとえばアプリの不具合が起きたときに、「どの階層で問題が発生しているのか?」と論理的に切り分けられるようになります。
このあと紹介する「OSI参照モデル」や「TCP/IPモデル」は、そうしたプロトコルの働きを整理して体系化した考え方です。少しだけ専門的な内容になりますが、プロトコルの全体像をつかむうえでとても重要です。初心者の方も、ぜひここで押さえておきましょう。
OSI参照モデルとは
通信に関わるプロトコルを整理して体系化するために考案されたのが、「OSI参照モデル」です。これは国際標準化機構(ISO)によって策定されました。OSI参照モデルでは、通信の流れを7つの階層(レイヤー)に分けて考えます。それぞれの階層が、次のような役割を担っています。
このように、通信プロセスを7段階に分けることで、「どの段階でどんな処理が行われているのか」が明確に整理されているのです。
さらに詳しく知りたい方は、こちらの記事もおすすめです。
【初心者必見】OSI参照モデル アプセトネデブで覚えよう
https://envader.plus/article/38
なお、インターネット通信の現場では、このOSI参照モデルがそのまま使われているわけではありません。現実には、次に紹介する「TCP/IPモデル」が標準になっています。
TCP/IPモデルとは
現在のインターネット通信の標準となっているのが、「TCP/IPモデル」です。TCP/IPモデルは、OSI参照モデルをベースにしながらも、より実際の通信に即した形で簡素化されています。階層は4つにまとめられています。
TCP/IPモデルでは、特に以下のアプリケーション層とトランスポート層が重要です。
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アプリケーション層
ユーザーの操作やサービス利用に直接関係する通信を管理します。たとえば、Webページを表示するHTTP通信や、メールを送受信するSMTP通信などがこの層に該当します。
→ ユーザー体験に直結する重要な層です。
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トランスポート層
アプリケーション間の通信が正確に、順序どおりに、確実に行われるよう支えています。
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TCP
データの分割・再送制御・到達確認といった処理を担い、通信の信頼性を保証します。
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UDP
多少のデータ欠損を許容する代わりに、より高速な通信を可能にします。
→ 性能や信頼性に大きく関わる層です。
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TCP/IPモデルについてさらに深く理解したい方は、こちらの記事も参考にしてみてください。
【わかりやすい】TCP/IPモデルのしくみと役割を徹底解説
https://envader.plus/article/295
OSIモデルとTCP/IPモデルの違い
TCP/IPモデルとOSI参照モデルは、どちらも通信プロセスを階層構造で整理する考え方に基づいていますが、位置づけには違いがあります。
モデル | 特徴 |
---|---|
OSI参照モデル | 理論上のモデル。通信を7階層に細かく分類し、各層の役割を厳密に定義 |
TCP/IPモデル | 実際のインターネット通信で標準的に使われている、より現実的な4階層のモデル |
つまり、OSI参照モデルは「設計や学習のための理論モデル」、TCP/IPモデルは「実際に広く使われている運用モデル」と整理することができます。
より具体的な違いや、現場でどちらのモデルがどのように利用されているかについては、以下の記事で詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。
TCP/IPモデルとOSI参照モデルの違いと実際の利用シーン
https://envader.plus/article/451
プロトコルの階層構造を理解しておくことで、システム設計やトラブル対応の場面でより柔軟な視点を持てるようになります。初心者の方も、焦らず少しずつ理解を深めていきましょう。
まとめ:プロトコルの理解は開発の基本を支える
本記事では、プロトコルの基本から、開発現場での重要性、さらに通信を支える階層構造について解説してきました。最後に大切なポイントを振り返りましょう。
プロトコルとは、コンピュータ同士が正しく情報をやり取りするための共通ルールです。開発や運用においては、プロトコルを理解していることで、トラブルへの対応力や設計の精度が大きく向上します。
また、通信はOSI参照モデルやTCP/IPモデルに基づく階層構造によって支えられており、各層が連携することで複雑なやり取りが成立しています。
こうした仕組みを知ることで、システム全体を俯瞰する視点が身につきます。今後、AIやクラウドサービスが進化する中で、プロトコルの理解はさらに重要性を増していきます。基本を押さえていくことで、アプリ開発や業務改善の幅が大きく広がるでしょう。
Linuxを学び、次のステップアップへ
プロトコルや通信技術を理解した次のステップとして、ぜひおすすめしたいのがLinuxの基礎知識の習得です。Linuxの知識は、通信技術と互いに補い合う関係にあり、アプリ開発やシステム運用を支える強力なスキルセットになります。通信技術とLinuxの知識は互いに補い合いながら、アプリ開発やシステム運用の土台をしっかりと支える強力なスキルセットになります。Linuxの基礎を押さえておくことで、ネットワークや通信の仕組みをさらに深く理解できるようになり、開発や運用の幅も大きく広がります。
そんなLinuxを楽しく効率的に学びたい方には、「エンベーダー」がおすすめです。
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参考資料
以下のリンクは、この記事で説明した手順や概念に関連する参考資料です。より詳しく学びたい方は、ぜひご覧ください。
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Wikipedia - 通信プロトコル
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アイティーエム - TCP/IPとは?通信プロトコルの階層モデルを図解で解説
-
イラスト図解式 この一冊で全部わかるネットワークの基本
著者:福永 勇二
定価:1,848円/192頁/ISBN:978-4-7973-8667-7
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「成功する人とそうでない人の違いは何か?」
私が出した答えは、「量産型エンジニアか否か」である。今のエンジニア市場には、量産型エンジニアが溢れている!!ここでの量産型エンジニアの定義は以下の通りである。
比較的簡単に学習可能なWebフレームワーク(WordPress, Rails)やPython等の知識はあるが、ITの基本概念を理解していないため、単調な作業しかこなすことができないエンジニアのこと。
多くの人がフリーランスエンジニアを目指す時代に中途半端な知識や技術力でこの世界に飛び込むと返って過酷な労働条件で働くことになる。そこで、エンジニアを目指すあなたがどう学習していくべきかを私の経験を交えて書こうと思った。続きはこちらから、、、、
エンベーダー編集部
エンベーダーは、ITスクールRareTECHのインフラ学習教材として誕生しました。 「遊びながらインフラエンジニアへ」をコンセプトに、インフラへの学習ハードルを下げるツールとして運営されています。

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