はじめに
通信におけるカプセル化について、「名前は聞いたことがあるけど、実際に何をしているのかよくわからない」「難しそうなイメージがある」という方も多いのではないでしょうか?
「カプセル化は通信の基本であり、特にTCP/IPを理解するうえで欠かせない重要な概念です」とわかってはいるものの、なかなか理解するのは難しいですよね。
そんな悩みをお持ちの方向けに、この記事では「図解で理解する」をテーマに、カプセル化についてやさしく解説していきます。この記事を読み終えるころには、「なんとなく知っている」から「理解している」、そして「誰かに説明できる」レベルへステップアップするお手伝いができれば幸いです。
この記事について
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目的
カプセル化を理解し、誰かに説明できるようになること
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対象者
ネットワークを学び始めた初学者の方
この記事を読むにあたり、TCP/IP通信モデルの概要を知っておくとスムーズに理解していただけるかと思います。TCP/IPについては以下の記事で詳しく解説していますので、ぜひ参照にしてみてください。
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【わかりやすい】TCP/IPモデルのしくみと役割を徹底解説
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TCP/IPモデルとOSI参照モデルの違いと実際の利用シーン
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ネットワークプロトコルTCPとUDPの違いとその用途
カプセル化とは何か?
カプセル化とは、データを送信する際に必要な情報(ヘッダーなど)を順番に追加していく仕組みのことです。これは通信の基本概念であるTCP/IPの各層で行われ、データに適切な情報を付加することで、相手が正確にデータを受け取れるようにしています。最終的に、この一連のプロセスを経て送信データが完成します。
もっとわかりやすく言えば、「送りたい手紙(データ)を封筒(カプセル)に入れて宛先ラベルを貼り、送る準備をする作業」と例えるとイメージしやすいでしょう。
カプセル化を理解することで、ネットワーク通信が単なる「データの送受信」ではなく、各層が協力しながらデータを確実に届ける複雑な仕組みであることが見えてきます。まずは、「データが層ごとに情報を追加されながら送られる」という流れをイメージするところから始めましょう。
なぜカプセル化をするのか
データを送信する際、データそのものだけでは送信できません。「どんなデータなのか」「どこに送ればよいのか」「どのアプリケーションがこのデータを利用するのか」などの情報がわからないため、これらを補足する必要があります。そこで、各層で「ヘッダー情報」を追加しカプセル化することで、データを正しく送信できる仕組みを作っています。
データのみでは何もわからない
例えば、アリスが以下のメッセージを送ろうとしているとしましょう。
「こんにちは!」
このメッセージそのもの(データ)だけでは、次のような情報が不足しています。
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送り先
誰に送るのかがわからなければ、メッセージは届けられません。
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メッセージの送り主
受信側が「誰から送られてきたのか」を知るための情報が必要です。
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使用するアプリケーション
メールで送るのか、チャットアプリで送るのか、正しいアプリケーションに届けるための情報が必要です。
ネットワーク通信における具体例
ネットワーク通信でも同様に、データそのものだけでは情報が足りず、次のような「補足情報」を各層で追加します。
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送信先と送信元(IPアドレス)
インターネット層では「送信先IPアドレス」と「送信元IPアドレス」を追加します。この情報によって、データがどこから来てどこに向かうべきかがわかります。
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使用するアプリケーション(ポート番号)
トランスポート層では、「どのアプリケーションがこのデータを使うのか」を指定するポート番号が付加されます。これにより、データが目的のアプリケーションに届きます。
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通信の種類(プロトコル情報)
アプリケーション層ではデータが何のプロトコルで送信されるかの情報が追加されます。プロトコルの種類から、受信側が何のデータが届いたのかがわかるようになります。
TCP/IPモデルの各層では、それぞれ異なる役割に応じてデータに必要な情報を追加していきます。このように、アプリケーション層からネットワークインターフェース層まで順番に「補足情報」を加えることで、通信相手がデータを正確に受信し解釈できるようになるのです。
カプセル化がなければデータ通信が成り立たない
カプセル化は、データそのものに「宛先」「送り主」「通信の種類」などの情報を追加することで、データが正確かつ安全に届けられるようにする仕組みです。これがなければ、ネットワーク通信は成立しません。 これは、「ただのメッセージ」を「誰にでも伝わる手紙」に変えるためのプロセスと言えるでしょう。
各層でのカプセル化について
ここまでカプセル化の仕組みについて学んできました。このセクションでは、実際にどのようにカプセル化が行われるかを、アリスがボブ宛にメールを送る場面を例に詳しく解説します。
メール送信の仕組み
メール送信の仕組みを簡単に説明すると、メールはアリスのメールアプリから直接ボブのメールアプリに送られるわけではありません。まず、アリスのメールデータはメールサーバーに送信され、ボブはそのサーバーに問い合わせてデータを受信します。このように、データが複数のネットワークを経由して運ばれる仕組みの中で、各層でのカプセル化が重要な役割を果たしています。
各階層でのカプセル化の詳細を確認する
では、カプセル化について具体的に確認していきましょう。アリスがメールアプリを使ってボブに「こんにちは!」とメッセージを送る場合、以下のように各層でヘッダー情報が順次追加されます。
アプリケーション層
アリスはメールアプリを開き、「こんにちは!」というメッセージを作成し、宛先としてボブのメールアドレスを入力します。さらに送信者の情報も指定します。
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この層の役割
メールの内容を作成し、メールプロトコル(SMTP)を利用して送信の準備を整えます。
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追加されるヘッダー情報
「このデータはSMTPプロトコルで送信される」という情報が付加されます。これにより、下位層はデータがどのプロトコルに従って送られるかを認識できます。
トランスポート層
アプリケーション層から渡されたメールデータをトランスポート層が受け取り、小さな単位(セグメント)に分割します。さらに、再送制御やデータの順序管理のための情報を追加します。
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この層の役割
データが途中で失われないよう信頼性を確保し、どのアプリケーション宛てのデータかを識別します。
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追加されるヘッダー情報:TCP/UDPヘッダー
- 宛先ポート番号(SMTPが使用するポート番号)
- データの順序情報(セグメントが適切に再構築されるための情報)
インターネット層
トランスポート層で処理されたデータはインターネット層に渡され、送信先と送信元のIPアドレスが追加されます。
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この層の役割
メールデータを適切な経路で正しい宛先に届けるため、ルーティング情報を追加します。
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追加ヘッダー情報:IPヘッダー
- 送信元IPアドレス(アリスが使用するIPアドレス)
- 宛先IPアドレス(ボブのメールサーバーのIPアドレス)
- プロトコル識別子(SMTPに関連付けられるプロトコル番号)
ネットワークインターフェース層
インターネット層で処理されたデータはネットワークインターフェース層に渡され、送信先ネットワークデバイスのMACアドレスが付加されます。この層では、ヘッダー情報に加えて、トレーラ(エラー検出情報)も追加されます。このトレーラがあることで、通信の信頼性を向上させることができます。トレーラには一般的にフレームチェックシーケンス(FCS:Frame Check Sequence)と呼ばれるデータが含まれており、通信中に発生する可能性のあるエラーを検出する役割を果たします。
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この層の役割
データを近くのネットワークデバイス(ルーターやスイッチ)に物理的に伝える役割を担います。また、信頼性の高いデータ転送を保証します。
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追加ヘッダー情報:イーサネットヘッダー
- 送信元MACアドレス(送信元デバイスの物理アドレス)
- 送信先MACアドレス(宛先デバイスの物理アドレス)
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その他の追加情報
- トレーラ(フレームチェックシーケンス:FCS)
完成したデータを送る
各層で必要な情報が追加されたデータは、最終的に電気信号や無線信号に変換されて、送信されます。このデータは、インターネットを経由して送信先のメールサーバーに届きます。
メール受信から画面表示までのプロセス
アリスが送信したメールがボブのメールサーバーに到達すると、ボブのメールアプリがそのサーバーに問い合わせを行い、メールデータを受信します。この受信データは、カプセル化された状態でボブのPCに届きます。非カプセル化のプロセスでは、このカプセル化されたデータから必要な情報を取り出し、最終的にメールの内容がボブのPCの画面に表示されます。
非カプセル化の仕組み
非カプセル化は、カプセル化のプロセスを逆順にたどる仕組みです。受信データはまずネットワークインターフェース層で受信され、ここで物理的な通信に関する情報が取り除かれます。次に、インターネット層で送信元と送信先IPアドレスが取り外され、トランスポート層でポート番号や順序制御情報が処理されます。最後に、アプリケーション層でSMTPプロトコルによるメールデータが解釈され、ボブのメールアプリケーションに渡されます。
こうして、ボブのPCに「こんにちは!」というアリスからのメールの内容が表示されます。
各階層でデータの呼び名は異なる
通信においてカプセル化されたデータの呼び名は、TCP/IPモデルの各層で異なります。以下は各層での呼び名と、プロトコルの例をまとめた表です。なぜ名前が変わるのかと思うかもしれませんが、層ごとに役割が異なるため、呼び名が異なることでどの階層のことを指しているのかが明確になります。これを理解しておくことで、カプセル化・非カプセル化の仕組みだけでなく、トラブルシューティングやネットワーク設計時にも役立ちます。
TCP/IPの層 | プロトコルの例 | 呼び名 |
---|---|---|
L-4 アプリケーション層 | SMTP, HTTP | メッセージ |
L-3 トランスポート層 | TCP | セグメント |
L-2 インターネット層 | IP | パケット |
L-1 ネットワークインターフェース層 | イーサネット | フレーム |
このように、カプセル化と非カプセル化のプロセスを経ることで、データは途中で欠落や破損が発生しても検出され、正確に宛先に届けられます。各階層がそれぞれの役割を担い、ヘッダーやトレーラなどの情報を追加または削除することで、通信全体の信頼性を確保しているのです。
この仕組みにより、ネットワークでのデータ通信は、欠落のない状態で安全かつ効率的に行われています。こうしたプロセスを理解することで、ネットワークの仕組みがより明確に見えてくるのではないでしょうか。
この記事で学んだこと
ここまでカプセル化について学んできました。最後に大切なポイントを振り返りましょう。
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カプセル化とは
カプセル化とは、データを送信する際に必要な情報(ヘッダーやトレーラなど)を順番に追加していく仕組みのことです。これにより、データがどの宛先に届けられるのか、どのアプリケーションが使用するのかといった情報が付加され、通信が正確に行われます。
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非カプセル化の仕組み
受信側では、カプセル化されたデータから必要な情報を取り出す「非カプセル化」のプロセスを行います。これは、カプセル化のプロセスを逆順にたどる仕組みで、ヘッダーやトレーラが層ごとに取り除かれ、最終的にデータが取り出されます。
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TCP/IPモデルの役割
カプセル化を理解することで、TCP/IPモデルの各層がどのような役割を果たしているか、各プロトコル(SMTP、TCP、IPなど)の具体的な働きについて学ぶことができました。
カプセル化の仕組みを知ることで、ネットワーク通信が単なるデータの送受信ではなく、多くの技術が協力して成り立っていることが分かります。また、図解を交えた解説が、初学者の方の理解を深める助けとなっていれば幸いです。
この記事をきっかけに、ネットワークの基礎をしっかりと学び、さらに詳しく学びを深めていきましょう!
参考資料
以下のリンクは、この記事で説明した手順や概念に関連する参考資料です。より詳しく学びたい方は、ぜひご覧ください。
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著者:小森 裕介
定価:2,508円/288頁/ISBN:978-4-7741-4235-7
発売日:2010年4月10日/発行元:技術評論社
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定価:1,848円/192頁/ISBN:978-4-7973-8667-7
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マスタリングTCP/IP 入門編(第6版)
著者:井上 直也 著、村山 公保 著、竹下 隆史 著、荒井 透 著、苅田 幸雄 著
定価:2,420円/400頁/ISBN:978-4-274-22447-8
発売日:2019年12月01日/発行元:オーム社
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Wikipedia
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アイティーエム
【番外編】USBも知らなかった私が独学でプログラミングを勉強してGAFAに入社するまでの話
プログラミング塾に半年通えば、一人前になれると思っているあなた。それ、勘違いですよ。「なぜ間違いなの?」「正しい勉強法とは何なの?」ITを学び始める全ての人に知って欲しい。そう思って書きました。是非読んでみてください。
「フリーランスエンジニア」
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「成功する人とそうでない人の違いは何か?」
私が出した答えは、「量産型エンジニアか否か」である。今のエンジニア市場には、量産型エンジニアが溢れている!!ここでの量産型エンジニアの定義は以下の通りである。
比較的簡単に学習可能なWebフレームワーク(WordPress, Rails)やPython等の知識はあるが、ITの基本概念を理解していないため、単調な作業しかこなすことができないエンジニアのこと。
多くの人がフリーランスエンジニアを目指す時代に中途半端な知識や技術力でこの世界に飛び込むと返って過酷な労働条件で働くことになる。そこで、エンジニアを目指すあなたがどう学習していくべきかを私の経験を交えて書こうと思った。続きはこちらから、、、、
エンベーダー編集部
エンベーダーは、ITスクールRareTECHのインフラ学習教材として誕生しました。 「遊びながらインフラエンジニアへ」をコンセプトに、インフラへの学習ハードルを下げるツールとして運営されています。
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