はじめに
クラウドコンピューティングが普及する中で、クラウドネットワークの設計は企業のIT戦略においてますます重要になっています。特に、主要クラウドプロバイダーであるAmazon Web Services(AWS)とMicrosoft Azureは、それぞれ異なるネットワーク設計思想を採用しており、この違いがセキュリティや運用の効率性に大きな影響を与えます。
ネットワーク設計の違いが与える影響
AWSとAzureのネットワーク設計の違いは、特にインターネット接続に関する設定に現れます。AWSでは、仮想ネットワーク内のリソースがインターネットにアクセスするためには、NATゲートウェイやインターネットゲートウェイなどの特定の設定が必要です。一方、Azureでは、デフォルトでインターネット接続が可能であるため、追加のNAT設定を行うことなく、リソースがすぐにインターネットに接続できます。この違いは、クラウドサービスを選択する際の重要な要因となり得ます。
記事の目的と内容
この記事では、Azureの「NATゲートウェイが不要」とされる理由を詳しく探ります。具体的には、Azureがどのようにデフォルト設定でインターネット接続を提供しているのか、その利便性や制約について解説します。さらに、特定の条件や要件においては、AzureでもNATゲートウェイが必要となるケースについても触れます。これにより、AWSとAzureのネットワーク設計思想の違いが実際の運用にどのように影響を与えるかを明らかにし、自社のクラウド環境選定に役立てることを目的としています。
AWSにおけるNATゲートウェイの役割
NATゲートウェイ(Network Address Translation Gateway)は、AWSにおけるネットワーキング機能の一つで、プライベートサブネット内のリソースがインターネットと通信するために使用されます。具体的には、プライベートサブネットに配置された仮想マシンなどのリソースが、外部インターネットと通信できるようにするための中継役を果たします。
NATゲートウェイは、アウトバウンド通信(インターネットへの送信)を許可し、インバウンド通信(インターネットからの受信)をブロックします。これにより、外部からプライベートサブネット内のリソースに直接アクセスすることなく、インターネットへのアクセスが可能になります。
デフォルトのセキュリティ設計
AWSでは、仮想ネットワーク内のサブネットがデフォルトで外部インターネットに接続できないようになっています。これは、セキュリティリスクを最小限に抑えるための設計です。具体的には、AWSのVPC(Virtual Private Cloud)内で、プライベートサブネットにはインターネットへの直接アクセスがなく、外部との通信には追加の設定が必要です。
パブリックサブネット
インターネットゲートウェイを設定することで、外部インターネットと通信が可能になります。通常、外部からのアクセスが必要なリソース(例: ウェブサーバー)はここに配置します。
プライベートサブネット
インターネットゲートウェイが設定されていないため、外部インターネットに直接接続できません。ここに配置されたリソースは、NATゲートウェイを通じてインターネットと通信します。これにより、セキュリティを確保しつつ、必要な外部通信が可能になります。
NATゲートウェイの使用シナリオ
NATゲートウェイは、プライベートサブネットに配置されたリソースがインターネットと通信する必要がある場合に使用されます。以下のようなシナリオで有効です。
OSのアップデート
プライベートサブネット内の仮想マシンが、外部のパッチサーバーやソフトウェアリポジトリからアップデートをダウンロードする場合。
外部APIへのアクセス
プライベートサブネット内のアプリケーションが、外部のAPIやサービスと通信する必要がある場合。
NATゲートウェイを利用することで、外部との通信を安全かつ制御された形で実現できるため、セキュリティの観点からも重要な役割を果たします。
Azureのインターネット接続のデフォルト設定
概要とNATの基本
NAT(Network Address Translation)とは、ネットワークアドレス変換の略で、プライベートネットワーク内のIPアドレスを公開IPアドレスに変換する技術です。これにより、複数の内部デバイスが単一の公開IPアドレスを使って外部ネットワークと通信できるようになります。Azureでは、NATが内部的に適用され、特別な設定なしで外部との通信が可能になります。
デフォルトのアウトバウンド通信の仕組み
Azureでは、仮想ネットワーク(VNet)内のサブネットに配置された仮想マシン(VM)は、特別な設定を行わなくてもインターネットに接続できます。これは、サブネットのルートテーブルにデフォルトでインターネットへのアウトバウンド通信を許可するルート(0.0.0.0/0)が設定されているためです。この設定により、ユーザーは特別な設定をせずに、仮想マシンをインターネットに接続できます。
サブネットにおけるインターネットへの出口
Azureのサブネットには、デフォルトでインターネットに接続するための出口(ルート)が用意されています。これにより、ユーザーは特別な設定をせずに、仮想マシンをインターネットに接続できます。この仕組みにより、初期設定の利便性が非常に高く、迅速なサービス展開が可能となります。
自動的なNATの適用
Azureでは、仮想マシンにパブリックIPアドレスが割り当てられていなくても、Azureの内部的な機能により、アウトバウンド通信のためのNATが適用されます。これにより、プライベートIPアドレスを持つ仮想マシンでもインターネットと通信できるようになります。
NSG(Network Security Group)の概要
**Network Security Group(NSG)**は、Azureのネットワーク内でトラフィックを制御するためのセキュリティ機能です。NSGは、仮想マシンやサブネットに対して、許可するトラフィックと拒否するトラフィックのルールを設定できます。これにより、リソースへのアクセスを管理し、ネットワークセキュリティを強化します。
主な機能
-
トラフィックのフィルタリング
インバウンドとアウトバウンドのトラフィックを制御するルールを設定できます。
-
優先順位
複数のセキュリティルールを設定し、優先順位でトラフィックを処理します。
-
リソースのグルーピング
サブネットやネットワークインターフェイスにNSGを適用して、一貫したセキュリティポリシーを実施できます。
NSGに関する詳細は、Azureの公式ドキュメントをご覧ください。
Azure NAT Gatewayの使用シナリオ
Azure NAT Gatewayは、アウトバウンド通信のための高いスループットとセキュリティを提供するサービスです。特に、大量のアウトバウンドトラフィックが発生する場合や、より細かい制御が必要な場合に利用されます。以下のようなケースで使用されます。
-
大規模なトラフィック管理
多くの仮想マシンやリソースがインターネットにアクセスする際に、スケーラブルで高性能なNATを提供します。
-
セキュリティの強化
セキュリティ要件に応じて、アウトバウンド通信の制御を強化するために利用します。
詳細な情報や設定方法については、Azure NAT Gateway の概要をご覧ください。
利便性と初期設定の違い
Azureのデフォルト設定は、ユーザーがすぐにクラウドリソースを利用できるよう、デフォルト設定でのスムーズなインターネット接続を提供しています。これにより、ネットワーク設定の手間を減らし、迅速なサービス展開をサポートします。一方、AWSでは、プライベートサブネットからのインターネットアクセスにはNATゲートウェイやインターネットゲートウェイの設定が必要であり、この違いがネットワーク設計における主要な要素となります。
AzureでNATゲートウェイが必要となるケース
Azure NAT Gatewayは、アウトバウンド通信に関する特定の要件を満たすために利用されるサービスです。デフォルトの設定では、Azure仮想ネットワーク内のリソースは特別な設定なしでインターネットに接続できますが、特定のシナリオではNATゲートウェイが有用です。
アウトバウンドIPの固定化
Azureでは、仮想マシンがインターネットに通信を行う際に、固定のパブリックIPアドレスを持たせる必要がある場合にAzure NAT Gatewayを使用します。これにより、すべてのアウトバウンド通信が指定したIPアドレスを経由するように設定でき、外部サービスとの連携時に一貫性を保つことが可能です。例えば、APIコールや外部データベースとの接続など、IPアドレスが固定されていることが求められる場合に役立ちます。
高度なセキュリティ要件
企業のセキュリティポリシーにより、アウトバウンドIPアドレスを特定の範囲に制限する必要がある場合も、Azure NAT Gatewayが役立ちます。特定のIPアドレスからのみ通信が許可される外部サービスと連携する場合など、セキュリティを強化するためにNATゲートウェイを設定することで、より厳密なアクセス制御が可能になります。これにより、セキュリティポリシーに従ったアウトバウンドトラフィックの制御が実現できます。
AWSとAzureのネットワーク設計思想の違い
AWSとAzureは、それぞれ異なるネットワーク設計思想を持ち、クラウドリソースの管理やセキュリティのアプローチに違いがあります。これらの違いは、ユーザーの運用方法やセキュリティポリシーに大きな影響を与えるため、理解しておくことが重要です。
セキュリティ vs. 利便性
AWSは、セキュリティファーストの設計を採用しており、ネットワーク設定に関する細かな制御が可能です。これにより、ユーザーはセキュリティ要件に応じて、ネットワークトラフィックやアクセス制御を厳密に設定できます。一方、Azureは利便性を重視し、デフォルト設定でのスムーズな利用を提供します。これにより、ユーザーは初期設定からすぐにクラウドリソースを利用できる一方で、セキュリティ要件に応じて追加設定が必要となることもあります。
NATゲートウェイの要不要に見る設計の違い
AWSでは、インターネット接続を実現するためにNATゲートウェイが必須です。これにより、プライベートサブネットからのアウトバウンド通信を管理し、セキュリティを維持します。一方、Azureでは、多くのケースでNATゲートウェイは不要で、デフォルト設定でインターネット接続が可能です。しかし、特定の用途やセキュリティ要件に応じて、AzureでもNATゲートウェイが必要になることがあります。これらの設計思想の違いを理解し、適切なクラウド設計を行うことが重要です。
まとめ
Azureのデフォルト設定の利便性は、多くのプロジェクトにおいて大きなメリットとなります。特に、仮想マシンが特別な設定なしでインターネットに接続できる点は、迅速なサービス展開に寄与します。しかし、セキュリティ要件が厳しい場合やアウトバウンドIPの制御が必要な場合には、AzureでもNATゲートウェイの設定を検討する必要があります。
一方、AWSでは、セキュリティを重視した設計が求められるユーザーにとって理想的な選択肢となります。AWSでは、プライベートサブネットからのインターネット接続にはNATゲートウェイが必須であり、これにより細かなセキュリティ制御が可能です。
どちらのクラウドプロバイダーを選ぶべきかは、プロジェクトの特性やセキュリティ要件によります。両者のネットワーク設計思想の違いを理解し、自社のニーズに最も適したクラウド環境を選定することが重要です。
参考資料
-
AWSのネットワーク設計とNATゲートウェイ
AWSのVPCおよびNATゲートウェイに関する公式情報とFAQが掲載されています。 -
Azure Virtual Networkの基本
Azureの仮想ネットワークに関する基本的な情報と設計の概要が説明されています。 -
Azure NAT Gatewayの概要
Azure NAT Gatewayの機能と使用ケースについての詳細な説明が含まれています。 -
AWSとAzureのネットワークアーキテクチャの比較
AWSとAzureのネットワーク設計の違いについて比較した記事です。
【番外編】USBも知らなかった私が独学でプログラミングを勉強してGAFAに入社するまでの話
プログラミング塾に半年通えば、一人前になれると思っているあなた。それ、勘違いですよ。「なぜ間違いなの?」「正しい勉強法とは何なの?」ITを学び始める全ての人に知って欲しい。そう思って書きました。是非読んでみてください。
「フリーランスエンジニア」
近年やっと世間に浸透した言葉だ。ひと昔まえ、終身雇用は当たり前で、大企業に就職することは一種のステータスだった。しかし、そんな時代も終わり「優秀な人材は転職する」ことが当たり前の時代となる。フリーランスエンジニアに高価値が付く現在、ネットを見ると「未経験でも年収400万以上」などと書いてある。これに釣られて、多くの人がフリーランスになろうとITの世界に入ってきている。私もその中の1人だ。数年前、USBも知らない状態からITの世界に没入し、そこから約2年間、毎日勉学を行なった。他人の何十倍も努力した。そして、企業研修やIT塾で数多くの受講生の指導経験も得た。そこで私は、伸びるエンジニアとそうでないエンジニアをたくさん見てきた。そして、稼げるエンジニア、稼げないエンジニアを見てきた。
「成功する人とそうでない人の違いは何か?」
私が出した答えは、「量産型エンジニアか否か」である。今のエンジニア市場には、量産型エンジニアが溢れている!!ここでの量産型エンジニアの定義は以下の通りである。
比較的簡単に学習可能なWebフレームワーク(WordPress, Rails)やPython等の知識はあるが、ITの基本概念を理解していないため、単調な作業しかこなすことができないエンジニアのこと。
多くの人がフリーランスエンジニアを目指す時代に中途半端な知識や技術力でこの世界に飛び込むと返って過酷な労働条件で働くことになる。そこで、エンジニアを目指すあなたがどう学習していくべきかを私の経験を交えて書こうと思った。続きはこちらから、、、、
エンベーダー編集部
エンベーダーは、ITスクールRareTECHのインフラ学習教材として誕生しました。 「遊びながらインフラエンジニアへ」をコンセプトに、インフラへの学習ハードルを下げるツールとして運営されています。
関連記事
2020.02.25
完全未経験からエンジニアを目指す爆速勉強法
USBも知らなかった私が独学でプログラミングを勉強してGAFAに入社するまでの話
- キャリア・学習法
- エンジニア
2023.01.27
AWS初心者がまず理解すべきVPCを徹底解説
アマゾンがAWS上で提供している機能の1つで、AWS上に作成できる仮想ネットワークです。
- AWS
2023.10.19
インフラエンジニアの仕事内容について解説
こちらはEnvaderの記事になります。
- インフラエンジニア
- ネットワーク
- AWS
2024.02.27
AWS ALBとAzure Application Gatewayの違い
この記事では、クラウドコンピューティングの二大巨頭、Amazon Web Services (AWS) の Application Load Balancer (ALB) と Microsoft Azure の Application Gateway (アプリケーションゲートウェイ)の間で、Web アプリケーション向けのロードバランサーサービスを比較します。
- AWS
- Azure