1. はじめに
NoSQL(Not Only SQL)は、過去10年以上にわたりデータベース技術の領域での大きな動きとなっています。NoSQLがなぜ登場しどのような価値を提供するのかを理解するためにはその背景を知ることが不可欠です。
NoSQLの出現背景
伝統的なリレーショナルデータベース管理システム(RDBMS)は、1970年代から企業のITインフラストラクチャの核心として使われてきました。これらのシステムは厳格なスキーマ・ACIDトランザクションそしてSQLという統一的なクエリ言語の上に構築されています。RDBMSは多くのビジネスアプリケーションにとって効果的でしたが、2000年代初頭には新しいタイプのアプリケーションとデータの要件が出現しました。
大量のデータ
ソーシャルメディア、センサーデータ、ログファイルなど、新しいデータソースが増加し、そのボリュームも爆発的に増えました。
スケーラビリティ
一貫した高速なパフォーマンスを維持しながら、大量のデータを処理するためのスケーラビリティが求められました。
フレキシビリティ
継続的な変化に対応するために、データベーススキーマを柔軟に変更できる能力が求められました。
これらの要件に答える形でNoSQLデータベースが誕生しました。
RDBMSとの主な違い
RDBMS(Relational Database Management System)は関連するテーブルの集まりとしてデータを整理し、保存・管理するためのデータベースシステムです。RDB・RDBMSについては下記の記事で詳しく解説しています。
https://envader.plus/article/206
スキーマの柔軟性
RDBMSは固定的なスキーマを必要としますが、NoSQLはスキーマレスまたは動的スキーマを持つものが多いです。これによりデータ構造の変更が容易になります。
スケールアウト
RDBMSは通常、垂直スケーリング(サーバーをアップグレードする)を前提としていますが、NoSQLは水平スケーリング(複数のサーバーにデータを分散)をサポートしています。
データモデル
RDBMSはテーブルベースのデータモデルを採用していますが、NoSQLにはドキュメント・キーバリュー・カラム・グラフなどさまざまなデータモデルが存在します。
トランザクション
RDBMSはACIDトランザクションをサポートしていますが、NoSQLはしばしば結果的一貫性やBASEトランザクションを採用しています。
NoSQLは、現代のアプリケーションの要件に対応する新しいアプローチを提供しており、データベース技術の未来を形作っています。
2. NoSQLの基本概念
NoSQLデータベースという言葉を耳にすると「SQLを使わないデータベース」という印象を持つかもしれませんが、実際はその名前以上の意味が込められています。
NoSQLの定義
NoSQLは「Not Only SQL」を意味します。つまりSQLだけではないあるいはSQLとは異なるアプローチを取るデータベースを指します。NoSQLデータベースはリレーショナルデータベースの制約を持たず、さまざまなデータモデルでのデータの格納と操作をサポートしています。
NoSQLの主な特徴
スキーマの柔軟性
事前に定義された固定のスキーマを持たず、データ構造が動的であることが多い。
水平スケーラビリティ
データベースを複数のサーバーに分散してスケールアウトする能力。
多様なデータモデル
キーバリュー、ドキュメント、カラムベース、グラフなど、様々なデータモデルに対応。
高いパフォーマンス
特に大量のデータや高いトランザクション負荷のシナリオでのパフォーマンスが要求される場合に適している。
なぜSQLではないのか?
リレーショナルデータベース(RDBMS)とSQLが多くのシステムで長らく支配的であったにも関わらずなぜNoSQLが登場したのでしょうか。その理由は主に以下の点に集約されます。
データの量と多様性
現代のアプリケーションは異なる形式や構造のデータを扱う必要があります。固定のテーブルスキーマではこのようなデータの多様性に柔軟に対応するのが難しい場合があります。
スケーラビリティの要求
RDBMSは垂直スケーリングに基づいて設計されていますが、大規模なデータセットや高いトラフィックを処理するには、水平スケーリングが有効でありNoSQLはこのアプローチを取り入れています。
高可用性と分散
世界中のユーザーにサービスを提供するアプリケーションは、地域の障壁を越えてデータを利用可能にする必要があります。NoSQLはデータのレプリケーションや分散を容易に実現します。
これらの理由から特定のユースケースや要件に合わせてNoSQLデータベースが積極的に選択されるようになっています。NoSQLがすべてのシナリオでRDBMSを置き換えるわけではありませんが現代のデータ要件に応じた選択肢として注目されています。
3. NoSQLの主なタイプ
NoSQLデータベースは異なるデータモデルに基づいて分類されます。主なタイプとその特徴および典型的なユースケースについて次のとおり解説します。
ドキュメントベース (例: MongoDB)
ドキュメントベースはJSONやBSONなどのドキュメント形式でデータを保存・管理するNoSQLデータベースです。
ドキュメントベースの特徴
- JSON、BSONなどのドキュメント形式でデータを保存
- スキーマフリーで、異なる構造のドキュメントを同じコレクション内に保存
- ドキュメントは一意のIDによって識別
ユースケース
- コンテンツ管理システムやブログプラットフォーム
- E-commerceアプリケーションでの商品カタログ
- リアルタイムのビッグデータアナリティクス
キーバリューストア (例: Redis)
キーバリューストアは一意のキーとそれに関連する値のペアでデータを保存・管理するNoSQLデータベースです。
KVSの特徴
- データはキーとそれに関連付けられた値のペアとして保存
- 高速な読み書きが可能で、メモリ上で動作するものも多い
- 通常、データ構造はシンプル
ユースケース
- キャッシング層としての利用で、高速なデータアクセスを提供
- セッション管理や短期的なデータの保存
- リアルタイムのカウンターやメトリクスの集計
カラムファミリーストア (例: Cassandra)
カラムファミリーストアはデータをカラムのグループ(カラムファミリー)として保存し、各行が異なるカラムセットを持つことができるNoSQLデータベースです。
カラムファミリーストアの特徴
- データはカラムのグループ(カラムファミリー)として保存
- 一つのカラムファミリー内で、各行が異なるカラムセットを持つことが可能
- 大量のデータを高速に書き込むことが得意
ユースケース
- 時系列データの格納と分析
- Webログの収集や監視データの処理
- ソーシャルメディアやイベントのストリームデータの保存
グラフベース (例: Neo4j)
グラフベースはデータをノードとエッジとして保存し、それらの間の関連性を強化・表現するNoSQLデータベースです。
グラフベースの特徴
- データはノードとエッジとして保存され、それらの間の関連性を強化
- クエリはグラフトラバーサルを用いて、関連するデータのパスを探索することが可能
- 高度な関連性のクエリに対して効率的
ユースケース
- ソーシャルネットワークでの友人の推薦や関係の解析
- フラウド検出のためのパターンマッチング
- 供給チェーンやネットワークインフラの最適化
それぞれのNoSQLデータベースタイプは特定の問題領域に対する解決策として設計されています。実際のプロジェクトやアプリケーションの要件に合わせて最適なものを選択することが重要です。
4. NoSQLのメリットとデメリット
NoSQLデータベースは近年のデータストレージ要件の変化に対応するために生まれましたが、他と同じくメリットとデメリットの両面が存在します。
メリット
スケーラビリティ
NoSQLデータベースは通常水平スケーラビリティに優れています。これによりデータベースを複数のサーバーやクラスタに容易に分散させることができ、大量のデータやトラフィックを効率的に処理することが可能です。
フレキシビリティ
ほとんどのNoSQLデータベースはスキーマレスもしくは動的スキーマを持っています。これにより、アプリケーションの要件が変わったときにも柔軟にデータモデルを変更することができます。
パフォーマンス
特定のユースケースやワークロードにおいて、NoSQLデータベースは高いパフォーマンスを提供することが多いです。例えば、大量の書き込み操作やキーに基づくデータの読み取りなどです。
デメリット
統一性の不足
さまざまなNoSQLデータベースが存在するため、それぞれのデータベースのAPIや機能は大きく異なることがあります。これにより異なるNoSQLデータベース間での移行や学習コストが高まることがあリます。
複雑性の増加
一部のNoSQLデータベースはデータの一貫性やトランザクションを実現するための複雑な設定や操作が必要となることがあります。
トランザクション処理の違い
RDBMSに比べ、NoSQLデータベースの多くは、ACID特性(原子性、一貫性、隔離性、耐久性)を完全にはサポートしていない場合があります。そのため一貫性を要求する複雑なトランザクションを実装する際には注意が必要です。
これらのメリットとデメリットを考慮してアプリケーションの要件や目的に合わせて適切なデータベースを選択することが重要となります。
5. NoSQLについてまとめ
NoSQLデータベースはデータの取り扱い方や保存の方法に革命をもたらし、現代のデータ要件の多様性と複雑性に柔軟に対応する様々なオプションを提供しています。ビッグデータやリアルタイム分析・高速なトランザクション処理など現代のアプリケーション開発の要件が多岐にわたるため、従来のRDBMSだけでは十分でない場面が増えてきたことに対する答えとして生まれたものです。
NoSQLデータベースを効果的に使用するためには、その特性や持つメリット・デメリットをしっかりと理解することが求められます。特にデータの整合性やスケーラビリティ・パフォーマンスなどの点での取り組み方がRDBMSとは異なるため注意が必要です。プロジェクトの要件や目的に応じて最適なNoSQLデータベースの選択と適切な実装方法を採用することが求められます
【番外編】USBも知らなかった私が独学でプログラミングを勉強してGAFAに入社するまでの話
プログラミング塾に半年通えば、一人前になれると思っているあなた。それ、勘違いですよ。「なぜ間違いなの?」「正しい勉強法とは何なの?」ITを学び始める全ての人に知って欲しい。そう思って書きました。是非読んでみてください。
「フリーランスエンジニア」
近年やっと世間に浸透した言葉だ。ひと昔まえ、終身雇用は当たり前で、大企業に就職することは一種のステータスだった。しかし、そんな時代も終わり「優秀な人材は転職する」ことが当たり前の時代となる。フリーランスエンジニアに高価値が付く現在、ネットを見ると「未経験でも年収400万以上」などと書いてある。これに釣られて、多くの人がフリーランスになろうとITの世界に入ってきている。私もその中の1人だ。数年前、USBも知らない状態からITの世界に没入し、そこから約2年間、毎日勉学を行なった。他人の何十倍も努力した。そして、企業研修やIT塾で数多くの受講生の指導経験も得た。そこで私は、伸びるエンジニアとそうでないエンジニアをたくさん見てきた。そして、稼げるエンジニア、稼げないエンジニアを見てきた。
「成功する人とそうでない人の違いは何か?」
私が出した答えは、「量産型エンジニアか否か」である。今のエンジニア市場には、量産型エンジニアが溢れている!!ここでの量産型エンジニアの定義は以下の通りである。
比較的簡単に学習可能なWebフレームワーク(WordPress, Rails)やPython等の知識はあるが、ITの基本概念を理解していないため、単調な作業しかこなすことができないエンジニアのこと。
多くの人がフリーランスエンジニアを目指す時代に中途半端な知識や技術力でこの世界に飛び込むと返って過酷な労働条件で働くことになる。そこで、エンジニアを目指すあなたがどう学習していくべきかを私の経験を交えて書こうと思った。続きはこちらから、、、、
エンベーダー編集部
エンベーダーは、ITスクールRareTECHのインフラ学習教材として誕生しました。 「遊びながらインフラエンジニアへ」をコンセプトに、インフラへの学習ハードルを下げるツールとして運営されています。
関連記事
2020.02.25
完全未経験からエンジニアを目指す爆速勉強法
USBも知らなかった私が独学でプログラミングを勉強してGAFAに入社するまでの話
- キャリア・学習法
- エンジニア
2023.03.27
データベースエンジニア向けの難易度別オススメ資格
今回はデータベース資格について解説します。資格を取ろうと考えている方は、ぜひ参考にしてくださいね。
- データベース
- キャリア・学習法
2023.03.21
【DB】初心者向けクライアントツール「DBeaver」の導入方法
DBeaverとはデータベースをGUIで操作することのできる無料のクライアントツールです。
- データベース
2023.03.28
ORMのメリットやユースケース
オブジェクト指向プログラミング言語とデータベースを結びつけるための技術です。
- データベース