はじめに
ECSとは?
Amazon Elastic Container Service (ECS)は、コンテナ化されたアプリケーションのデプロイ、管理、スケーリングを簡単にするためのフルマネージドなコンテナオーケストレーションサービスです。ECSはAWSインフラストラクチャと統合されており、信頼性が高くスケーラブルな環境でコンテナを実行できます。
ECSの基礎についてはこちらで詳しく解説しています。
https://envader.plus/article/180
デプロイメント戦略の重要性
デプロイメント戦略は、アプリケーションの更新をスムーズかつ安全に行うための重要な手段です。適切な戦略を選ぶことで、ダウンタイムを最小限に抑え、ユーザーへの影響を軽減できます。本記事では、ECSで利用可能な2つの主要なデプロイメント戦略、ブルー/グリーンデプロイメントとローリングアップデートについて解説します。
ブルー/グリーンデプロイメント
EC2 Container ServiceのBlue/Greenデプロイメントより
ブルー/グリーンデプロイメントの概要
ブルー/グリーンデプロイメントは、2つの環境(ブルーとグリーン)を用いてアプリケーションをデプロイする手法です。新しいバージョンのアプリケーション(グリーン環境)を並行して稼働させ、テスト後にトラフィックを切り替えます。これにより、既存のバージョン(ブルー環境)を維持しつつ、新しいバージョンを導入できます。
メリットとデメリット
メリット | デメリット |
---|---|
ダウンタイムの最小化 | 2つの環境を維持するためのコストがかかる |
ロールバックが容易 | 環境間の同期が必要 |
リリースのリスクを低減 |
実装手順
-
準備
- Amazon ECSクラスターを作成します
- アプリケーションロードバランサー(ALB)を設定し、2つのターゲットグループを作成します。一方はブルー環境用、もう一方はグリーン環境用です
-
ブルー環境の設定
- 現行バージョンのアプリケーションをブルー環境としてデプロイします。この環境がトラフィックを処理します
-
グリーン環境の設定
- 新バージョンのアプリケーションをグリーン環境としてデプロイします。この環境はまだトラフィックを処理しません
-
テスト
- グリーン環境で動作確認とテストを実施します
-
トラフィックの切り替え
- ALBのリスナー設定を変更し、トラフィックをブルー環境からグリーン環境に切り替えます。これにより、新バージョンが本番環境で稼働を開始します
サンプルシナリオ
あるWebアプリケーションの新しいバージョンをデプロイする場合を考えます。
-
準備
- ECSクラスターとALBを設定し、ブルー環境(現行バージョン)とグリーン環境(新バージョン)のターゲットグループを作成します
-
ブルー環境の設定
- 現行バージョンのアプリケーションをブルー環境としてデプロイし、トラフィックを処理します
-
グリーン環境の設定
- 新しいバージョンのアプリケーションをグリーン環境としてデプロイします。この段階ではトラフィックはまだ処理しません
-
テスト
- グリーン環境で新バージョンの動作確認とテストを行います
-
トラフィックの切り替え
- ALBのリスナー設定を変更し、トラフィックをブルー環境からグリーン環境に切り替えます。これにより、新しいバージョンが本番環境で稼働を開始します
-
ロールバックの準備
- 問題が発生した場合には、リスナー設定を元に戻して、ブルー環境にトラフィックを切り替えることで迅速にロールバックを行います
このようにダウンタイムを最小限に抑えつつ、新しいバージョンのアプリケーションを安全にデプロイすることが可能です。
ローリングアップデート
ローリングアップデートの概要
ローリングアップデートは、アプリケーションの新しいバージョンを段階的にデプロイする手法です。少数のインスタンスを順次更新し、全てのインスタンスが新しいバージョンに置き換わるまで繰り返します。このプロセスにより、アプリケーションの可用性を維持しながらデプロイを実行できます。
メリットとデメリット
メリット | デメリット |
---|---|
コスト効率が高い | ロールバックが複雑 |
インスタンスごとの更新により、障害時の影響を最小限に抑えられる | 更新中に新旧バージョンが混在するリスク |
実装手順
-
準備
- 新しいタスク定義を作成し、更新を反映します
- ECSサービスを更新し、ローリングアップデートを開始します
-
アップデートの実行
- ローリングアップデート設定に従って、少数のタスクから順次更新を実行します
- ALBが新しいタスクを登録し、古いタスクを切り離します
-
モニタリングとロールバック
- 更新中のログとメトリクスを監視し、問題が発生した場合は迅速にロールバック手順を実行します
サンプルシナリオ
あるオンラインストアのアプリケーションの新しいバージョンをデプロイする場合を考えます。
-
準備
- 新しいバージョンのタスク定義を作成し、ECSサービスに適用します
-
アップデートの実行
- ローリングアップデートの設定に基づき、少数のインスタンスから順次新しいバージョンに更新を開始します
- ALBが新しいインスタンスを登録し、古いインスタンスを切り離します
-
モニタリングとロールバック
- 更新中のパフォーマンスやエラーログを継続的に監視し、問題が発生した場合は直ちにロールバック手順を実行し、旧バージョンに戻します
これにより段階的な更新が可能となり、システム全体の安定性を保ちながら新しい機能を導入することができます。
比較と選択基準
各デプロイメント戦略の比較
ブルー/グリーンデプロイメント
- 高い可用性を維持でき、迅速なロールバックが可能。ただし、コストが高い。
ローリングアップデート
- コスト効率が高く、段階的に更新できるが、ロールバックが複雑。
適切な戦略の選び方
適切なデプロイメント戦略を選ぶ際には、以下の基準を考慮すると良いでしょう。例を用いてわかりやすく説明します。
ブルー/グリーンデプロイメントが適している場合
- 高い可用性が必要なとき
- 例: 大規模なeコマースサイトのように、ダウンタイムが売上に直接影響するアプリケーションでは、常に稼働している環境(ブルー環境)を維持しつつ、新バージョン(グリーン環境)を導入することが重要です。
- 迅速なロールバックが必要なとき
- 例: 金融機関のオンラインバンキングシステムでは、新しい機能のデプロイ後に問題が発生した際、即座に元の環境に戻す必要があります。ブルー/グリーンデプロイメントでは、迅速にトラフィックを元の環境に戻せるため、このような状況に適しています。
ローリングアップデートが適している場合
- コスト効率が重要なとき
- 例: スタートアップ企業の小規模なウェブサービスでは、予算が限られているため、既存のインスタンスを少しずつ更新するローリングアップデートが適しています。これにより、追加のリソースを必要とせず、コストを抑えることができます。
- 頻繁なリリースが求められるとき
- 例: ソーシャルメディアプラットフォームのように、頻繁に新機能やバグ修正をリリースする必要がある場合、ローリングアップデートは適しています。段階的な更新により、新機能を迅速に導入でき、同時にシステム全体の安定性を保つことができます。
アプリケーションの要件や運用環境によって、デプロイメント戦略は異なります。各戦略の特性を理解し、プロジェクトに最も適した方法を選ぶことが成功の鍵となります。自分の状況に合ったアプローチを見つけて、スムーズなデプロイを実現しましょう。
実践的なヒントとトラブルシューティング
ベストプラクティス
ステージング環境でのテストが必要ですか?
はい、必ずデプロイ前にステージング環境でテストを実施してください。これにより、本番環境での予期しないエラーを未然に防ぐことができます。
デプロイメントプロセスの効率化方法は?
自動化ツールを活用しましょう。CI/CDパイプラインを構築することで、デプロイメントプロセスを効率化し、人為的なミスを減らすことができます。
異常を早期に検知するには?
モニタリングとアラートを設定してください。例えば、Amazon CloudWatchを使用して、アプリケーションのパフォーマンスやエラーログを監視し、異常が検出された場合に通知を受け取るように設定できます。
よくある問題とその解決策
トラフィック切り替え時の遅延が発生します。どうすればいいですか?
ロードバランサーの設定を最適化することが重要です。例えば、ターゲットグループのヘルスチェック設定を見直し、適切なタイムアウト値やリトライ回数を設定することで、遅延を減らすことができます。
更新中にエラーが発生しました。どう対処すればいいですか?
ログとメトリクスを詳細に分析し、原因を特定してください。Amazon CloudWatchやAWS X-Rayを使用して、アプリケーションの動作や依存関係を可視化し、問題の箇所を特定することができます。
ロールバックが難しい場合、どのように対応すればいいですか?
事前にロールバック手順を明確に定義し、テストを実施しておくことが重要です。ブルー/グリーンデプロイメントやローリングアップデートの手法を利用する場合、それぞれのロールバック手順を事前に検証し、問題が発生した際に迅速に対応できるよう準備しておきましょう。
まとめ
主要ポイントの再確認
- ECSでは、ブルー/グリーンデプロイメントとローリングアップデートという2つの主要なデプロイメント戦略が利用可能。
- それぞれの戦略にはメリットとデメリットがあり、適切な選択が重要です。
選び方のポイント
デプロイメント戦略を選ぶ際は、プロジェクトの要件やリソースに応じて慎重に検討することが重要です。最適な戦略を選ぶことで、アプリケーションの更新をスムーズかつ安全に実施できます。プロジェクトの成功に向けて、ぜひ各戦略の特性を理解し、適切な方法を選びましょう。
参考資料
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エンベーダー編集部
エンベーダーは、ITスクールRareTECHのインフラ学習教材として誕生しました。 「遊びながらインフラエンジニアへ」をコンセプトに、インフラへの学習ハードルを下げるツールとして運営されています。
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