近年、企業の社内システムもクラウドを用いた導入がますます進み、日常業務に欠かせないものになっています。本記事では、「クラウド」と、その対義語として用いられる「オンプレミス」についてそれぞれどんな意味なのか、2つを比較したメリット・デメリット、それぞれどのようなケースで利用するのか、について解説します。
オンプレミスとは
オンプレミス(on-premise)はシステム稼働に必要となるサーバーやネットワーク機器、ソフトウェアなどを自社で保有し、運用するシステム利用形態です。自社の保有するサーバールームやデータセンターなどのスペースにサーバーを設置し、電気、空調の管理から、通信回線まで自社の責任において運用します。
かつては企業が業務用に情報システムを構築するには、自社内に資源を用意する以外の選択肢がありませんでした。それが2000年代後半以降、クラウドコンピューティングの浸透に伴い、業務用システムもクラウドで自社外に構築、運用するというケースが増えてきています。こうした時代の流れに応じて、自社外にIT資源を確保する「クラウド型」と対比する言葉として、自社内にすべての資源を確保する、「オンプレミス型」というが用いられるようになりました。
ちなみに、英単語”premise”は、「構内」「建物」などを意味する名詞で、これに前置詞”on”をつけることで、「構内に用意する」などの意味を表現した言葉になります。
クラウドとは
クラウド(Cloud)とは、クラウドコンピューティング(Cloud Computing)やクラウドサービス(Cloud Service)を略して使われる用語です。クラウドコンピューティングとは、インターネットなどの回線を介して、社外の組織が保有するハードウェアやソフトウェアなどの資源を、サービスとして必要な時に、必要な分だけ利用するというコンピュータの利用形態のことで、利用可能なサービスのことをクラウドサービスといいます。
NIST(米国国立標準技術研究所)の定義によると、クラウドの基本的な特徴として以下の5項目を挙げており、クラウドサービスは、5項目すべてを備えなければならないとしています。
- オンデマンド・セルフサービス(On-demand self-service )
- 幅広いネットワークアクセス(Broad network access)
- リソースの共用(Resource pooling)
- スピーディな拡張性(Rapid elasticity)
- サービスが計測可能であること(Measured Service)
英単語”Cloud”は「雲」を意味する名詞です。なぜ、Cloudという用語を使うようになったのかは諸説ありますが、実態がぼんやりしていて、ユーザーから把握しにくい、ネットワークの先にあるサーバーを表すときに、雲の絵を使ったから、という説がよく用いられます。
メリット、デメリットの比較
近年はクラウドがますます浸透しておりますが、当然メリット、デメリットがあり、使い方に応じて、導入の仕方を選ぶことが大切です。
オンプレミス | クラウド | |
---|---|---|
初期費用 | 高 | 低 |
導入期間 | 長 | 短 |
ランニング費用 | 大(利用形態による) | 小 |
物理的なスペース | 大 | 小 |
サーバーの拡張性 | 難 | 容易 |
サーバー、OS、アプリケーションの更新 | 要 | 不要 |
カスタマイズの自由度 | 高 | 低 |
社内システムとの連携 | 容易 | 難の場合あり |
障害対応 | 自社/ベンダー対応 | ベンダー対応 |
災害時のリスク | 大 | 小 |
初期費用
オンプレミスの場合は、自社でサーバーなどを用意しなければなりません。サーバー導入には一般的に数百万円単位のマシン費用が掛かるのに加え、導入に期間がかかるため、導入作業の人件費も大きくなる傾向があります。
クラウドの場合は、サーバー環境を自社で用意する必要はありません。システムやアプリを利用するための設定費用などはかかりますが、通常、数十万円単位で収まる範囲内です。
導入期間
オンプレミスの場合、システムを新しく構築する必要があります。システムの要件定義、設計、テスト、リリースというプロセスを経て使用可能になります。また初期費用が高額なため、導入には慎重な決断が必要となり、承認プロセスも時間がかかるケースが多くなります。一般的には、数か月から半年程度の期間を見込むことになります。
クラウドの場合は、申し込み後即時にサービス利用可能なことも多く、設定や部分的なカスタム要件を除けば、即利用が可能です。
ランニング費用
オンプレミスの場合、サーバーの固定資産税、ソフトウェアのライセンス費用、ハードウェア・ソフトウェアそれぞれの運用担当者の人件費などがランニング費用として挙げられます。固定資産税や人件費などによって、クラウドと比較すると、ランニングコストが高くなる要因になります。
クラウドの場合は、サーバーなどの運用初期費用はすべてサービス費用に含まれています。ライセンス数やその期間についても、使うときに、使う分だけ、の選択が可能なため、余剰が生まれる余地が少なく、コストは低く抑えることができます。運用はサービス提供者と分担する形になるので、運用担当者の人件費も比較的低く抑えられます。
物理的なスペース
オンプレミスの場合は、自社内にサーバー、ネットワーク機器を置くスペース、電力、空調が必要です。
クラウドの場合は、すべてクラウド事業者に任せられるので、物理的なスペースは不要です。
サーバーの拡張性
オンプレミスでは、ハードウェアの増設が必要なため、機器の調達から、設計など、相応費用と時間が必要です。
クラウドでは、サービスプランによるところはありますが、その範囲内であれば、自由に、迅速に拡張が可能です。またクラウドの場合は、縮小も容易なため、利用状況に応じて、拡張したり、縮小したりが簡単に行えるというメリットにつながります。
サーバー、OS、アプリケーションの更新
オンプレミスの場合は、自社の責任の下で、定期的にサーバー、OS、アプリケーションの更新を行う必要があります。場合によってはハードウェア更新のために、予算の確保や、停止調整など長期的な計画を立てなければならず、相応の負荷があります。
クラウドでは、クラウドベンダーが常に最新のOS、アプリケーションに更新するため、ユーザー側での更新は必要ありません。
カスタマイズの自由度、社内システムとの連携
オンプレミスでは、自社の要望に対して、サーバーを自由にカスタマイズを行うことができます。自社の同じネットワーク内にシステム構築できるため、既存の社内システムとの連携も容易に行うことができます。
クラウドでは、クラウドベンダーの提供する範囲によって制約が生まれます。クラウドの場合は、インターネットを経由するため、既存の社内システムとの連携が難しく、場合によっては、連携ができない場合もあります。近年はクラウドサービスの浸透に伴い、API(Application Programming Interface)が提供されているケースが増えてきているため、クラウドとの連携はしやすくなってきています。
障害対応
オンプレミスの場合は、導入ベンダーと契約することで、リスク分散をすることは可能ですが、あくまで自社環境なので、基本的には自社で障害対応も行うことになります。
クラウドでは、クラウドベンダー側で保守や復旧作業をおこないます。逆に言えば、障害が起きてもユーザー側で手を出すことができないので、復旧を待つしかない、ということも起こります。
災害時のリスク
オンプレミスでは、自社敷地内に環境を用意するため、地震などの自然災害に自社環境が巻き込まれた場合には、サービスが停止する場合があります。
クラウドは堅牢なデータセンター内にサーバーが設置されており、データセンターも各地に点在し、システムを分散して配置することが可能なため、災害時のリスクを低下することが可能です。
どちらを選ぶべきか
利用するケースに応じて、クラウド、オンプレミスを選択することが大切です。以下に一例を紹介します。
オンプレミスを利用するケース
- 自社内の機密情報を扱い、社外に一切データを出したくない
- 自社独自のシステムとデータ連携するため、自社内に構築したい
- クラウドでは用意しきれない、高性能なサーバが必要
クラウドを利用するケース
- 新規事業の立ち上げやスタートアップのため、初期費用を抑え、素早く導入がしたい
- システム構築、運用のリソースが足りない
- テレワークなどでの外部アクセスを想定している
まとめ
昨今のクラウドサービスの流行に伴い、とにかく「クラウドのほうが良い」という意見になりがちですが、オンプレミスならではの、カスタマイズの自由度や、セキュリティの確保などのメリットにも目を向けて、長期的な視点で検討することが重要です。
オンプレミスとクラウドを組み合わせたハイブリット運用という手段もあります。クラウドだけ、オンプレミスだけではなく、どちらともよく理解をして適切に利用することが、これからのシステム構築において必要なスキルになってくるのだと思います。
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「成功する人とそうでない人の違いは何か?」
私が出した答えは、「量産型エンジニアか否か」である。今のエンジニア市場には、量産型エンジニアが溢れている!!ここでの量産型エンジニアの定義は以下の通りである。
比較的簡単に学習可能なWebフレームワーク(WordPress, Rails)やPython等の知識はあるが、ITの基本概念を理解していないため、単調な作業しかこなすことができないエンジニアのこと。
多くの人がフリーランスエンジニアを目指す時代に中途半端な知識や技術力でこの世界に飛び込むと返って過酷な労働条件で働くことになる。そこで、エンジニアを目指すあなたがどう学習していくべきかを私の経験を交えて書こうと思った。続きはこちらから、、、、
エンベーダー編集部
エンベーダーは、ITスクールRareTECHのインフラ学習教材として誕生しました。 「遊びながらインフラエンジニアへ」をコンセプトに、インフラへの学習ハードルを下げるツールとして運営されています。
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