1. この記事の目的
MVPとは、Minimum Viable Productの略で、直訳すると「最小限の実用的な製品」を意味します。これは、製品の核となる機能だけを持ったバージョンを素早く市場に投入し、ユーザーの反応やニーズをリアルタイムで収集する方法です。このアプローチにより無駄な開発コストや時間を省きつつ、市場のニーズに迅速に対応することができます。
この記事ではWeb開発におけるMVPの定義とメリット、そして実際の開発プロセスを詳しく解説します。エンジニア初学者をはじめ開発者、プロジェクトマネージャーやビジネスオーナーにも役立つ情報を提供することを目的としています。
2. MVP(Minimum Viable Product)とは
画像の引用元:Making sense of MVP (Minimum Viable Product) – and why I prefer Earliest Testable/Usable/Lovable
こちらはMVPの概念を表しているとして有名なHenrik Kniberg氏のイラストです。車が欲しいとのユーザーのニーズを深掘りした時に移動手段が目的であることがわかったため、段階的にニーズを満たしつつ提供している様子を表しています。確かに車が欲しいのにタイヤから見せられても困りますよね。
MVPの定義と概念の説明
MVP(Minimum Viable Product:以降MVP)は最初に述べた通り、「最小限の実用的な製品」という意味を持つ言葉です。これは、多くの機能や飾り付けを持たない、製品の最も基本的なバージョンを指します。ですがこの「最小限」という言葉に騙されてはいけません。MVPはユーザーにとって価値があり、そのニーズを満たすための十分な機能を持っている必要があります。
この考え方の背後には、製品のアイディアやコンセプトが実際の市場で受け入れられるかどうかを、大きなリスクや投資をせずに素早く検証するという思想があります。開発初期の段階でユーザーのフィードバックを得ることで、製品の方向性を正確に決定し、無駄な開発時間や資源を削減することができます。
MVPの意義
Web開発の世界では、技術やツールそれにユーザーのニーズが常に変化しています。このような流動的な環境で、新しいWebアプリケーションやサービスを開発する際に、MVPのアプローチは多くの利点を持っています。
迅速な市場投入
Web開発プロジェクトは、MVPを使用して短期間で製品を市場に投入することができます。例えばTwitter(現X)は、最初はシンプルなテキストメッセージの投稿機能を備えたMVPからスタートし、ユーザーの反応を踏まえて機能を追加していきました。この結果Twitterは短時間で世界的なプラットフォームに成長することができました。
柔軟な変更
MVPは基本的なフレームワークに焦点を当てるため、ユーザーからのフィードバックに基づいて製品の機能やデザインを柔軟に変更することが容易です。Uberの例では、最初は単なるタクシー配車アプリとしてスタートしましたが、ユーザーからのフィードバックに基づいて、フードデリバリーやカーシェアリングなどの機能を追加していきました。これにより、Uberはユーザーのニーズに応じたサービスへと進化を遂げました。結果、日本においてはフードデリバリーの代名詞と言えるほどに認知されました。
効果的なリソースの利用
不要な機能の開発を避けることで、開発チームのリソースを最も重要な部分に集中させることができます。Airbnbは、最初はシンプルな宿泊施設の検索機能を備えたMVPからスタートし、ユーザーの反応を踏まえて機能を追加していきました。このことによりAirbnbは開発コストを抑えながら、世界的なプラットフォームに成長することができました。
3. MVPとマーケットインの関連性
MVP(Minimum Viable Product)とマーケットインの考え方は、特に新しい製品やサービスを市場に投入する際のアプローチとして、密接に関連しています。それぞれのアプローチの特徴と関連性について説明します。
MVP(Minimum Viable Product)
MVPは、製品の最小限の機能を持った初期バージョンを開発し、これを早期に市場に投入することで、ユーザーからのフィードバックを収集するアプローチです。この方法の目的は、製品の方向性を確認し、リスクを最小限に抑えながら、市場に適した製品を効率的に開発することです。
マーケットイン
マーケットインのアプローチは、市場のニーズや要求を先に把握し、それを基に製品やサービスを開発する方法です。このアプローチの主な目的は、市場の声を直接取り入れて、ユーザーが実際に求めているものを提供することです。
関連性と違い
MVPとマーケットインのアプローチは、ともに市場やユーザーの反応を重視して製品を開発する点で共通しています。ですが、アプローチの取り組み方や焦点には違いがあります。
- MVP:初期段階の製品を市場に投入し、ユーザーの反応を基に改良を重ねていく。
- マーケットイン:市場のニーズを最初から深く理解し、それに基づいて製品を開発する。
実際の製品開発では、これらのアプローチを組み合わせて使用することも多いです。市場のニーズを理解した上で、MVPを開発し、そのフィードバックを元に製品を継続的に改良していくという形が取られることがよくあります。
4. MVPのメリット
MVPのアプローチを採用することで、企業や開発者は多くのメリットを享受することができます。以下に主要なメリットを詳しく解説します。
リスクの最小化
MVPは製品の核心的な部分だけを構築することから、大規模な開発や投資を行う前に市場の反応を確かめることができるため、大きな失敗を未然に防ぐことが可能となります。
開発初期段階でのフィードバックによる誤りの修正
MVPを公開することで、実際のユーザーからの早期段階でのフィードバックを得ることができます。誤りや不足している部分を迅速に修正し、製品の質を高めることができます。
余計な機能の開発時間とコストを削減
MVPのアプローチは、ユーザーにとって本当に必要な機能だけを集中して開発することを目的としています。不要な機能の開発にかかる時間やコストを大幅に削減することができます。
市場への迅速なアクセス
MVPを活用することで製品を短期間で市場に投入し、ユーザーの反応を得ることができます。この結果競合他社よりも先に市場に参入し、先行者利益を享受することが可能となります。
ユーザーの本当のニーズの把握
MVPは実際のユーザーからの直接的なフィードバックを基盤として製品を改良していきます。ユーザーの真のニーズや要望を的確に把握し、それに応じた製品の改善や拡張を行うことができます。
デメリット
このようにメリットが多いMVPですがデメリットがないわけではありません。当初は機能が限られているというデメリットがあります。このデメリットをどのように克服するかについては、以下のアプローチが考えられます。
- MVPをリリースした後、ユーザーのフィードバックに基づいて機能を追加していく
- MVPの段階で、ユーザーのニーズを十分に調査し、最小限の機能でもユーザーの課題を解決できるようにする
MVPの働きそのままだと言えばそうですが、これらのアプローチを組み合わせることでMVPのデメリットを克服し、Web開発プロジェクトの成功につなげることができます。
5. MVP開発のステップ
1. 市場調査
市場調査は、製品開発の基盤となるフェーズです。
ターゲットユーザーの特定
製品の成功のためには、誰に向けて製品を作成するのか明確にすることが重要です。
競合他社の製品との差別化
同じ市場に存在する競合製品との違いを明確にし、自社の製品の独自性を強調することで、市場での位置づけを強化します。
2. 要件定義
具体的な製品の方向性を決定する段階。
最も重要な機能の特定
初期のバージョンで必要不可欠な機能を特定し、優先順位をつけます。
ユーザーストーリーの作成
ターゲットユーザーが製品を使用する際のシナリオを明確にし、開発チームに方向性を示します。
3. プロトタイプの設計
製品の初期バージョンのデザインを行うフェーズ。
ユーザビリティの考慮
ユーザーが製品を簡単に使用できるように、直感的なデザインを心掛けます。
デザインとUXの重要性
見た目の美しさだけでなく、ユーザーエクスペリエンスも考慮し、ユーザーが製品を効果的に使用できるようにします。
4. 開発とテスト
実際の製品の開発と、その品質を確保するテストを行います。
アジャイル開発の採用
柔軟性の高い開発方法であり、継続的にフィードバックを取り入れながら製品を改善していきます。
継続的なフィードバックの取得
開発中もターゲットユーザーやステークホルダーからのフィードバックを収集し、製品の品質を向上させます。
5. リリースとフィードバックの収集
製品を市場に投入し、実際のユーザーの反応を確認します。
ユーザーからのフィードバックの収集方法
アンケートやインタビューなど、様々な方法でユーザーの声を収集します。
改善点の特定と次のバージョンへの反映
収集したフィードバックをもとに、製品の改善点を特定し、次のバージョンの開発に活かします。
6. MVPの例
「2. MVP(Minimum Viable Product)とは」の章でいくつか例を挙げましたが、他のものも紹介します。
1. Dropbox
DropboxのMVPは、実際の製品を開発する前に、ビデオの形式で提供されました。このビデオは、Dropboxの基本的な機能と利用シナリオを示しており、視聴者に製品の魅力を伝えることを目的としていました。このビデオを公開した結果、ユーザーの関心が高まり、製品の開発が加速されました。
Dropboxの公式サイト
2. Slack
初期のSlackは、内部コミュニケーションツールとしてゲーム開発会社で使用されていました。その後、彼らはこのツールが持つポテンシャルを認識し、一般の企業や組織向けのコミュニケーションツールとして再設計しました。最初はシンプルなメッセージングアプリとしてリリースされ、その後のフィードバックに基づき機能が追加されていきました。
Slackの公式サイト
7. まとめ
MVPとは、Minimum Viable Productの略で、直訳すると「最小限の実用的な製品」を意味します。これは、製品の核となる機能を備えた初期バージョンを市場に投入し、ユーザーからのフィードバックに基づいて製品を継続的に改良するアプローチです。
MVPを採用することで、以下のメリットを得ることができます。
- 開発初期に市場の反応を確認できる
- 不要な機能の開発時間やコストを削減できる
- リスクを最小限に抑えながら、市場に適した製品を開発できる
MVPの採用を推奨する理由
Web開発プロジェクトは、技術的な変化や市場の動向が非常に速く、開発中にも市場のニーズが変わることがあります。このような環境下で、MVPのアプローチを採用することは、以下の点で非常に有効です。
- 製品の方向性を素早く確認できる
- 市場の変化に柔軟に対応できる
- ユーザーからの直接的なフィードバックを得られる
MVPはWeb開発プロジェクトにおいて成功への道を確実にするための鍵となるアプローチです。エンジニア初学者の方でも、MVPのアプローチを採用することで、製品開発の基本的なスキルを身につけることができます。
【番外編】USBも知らなかった私が独学でプログラミングを勉強してGAFAに入社するまでの話
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「成功する人とそうでない人の違いは何か?」
私が出した答えは、「量産型エンジニアか否か」である。今のエンジニア市場には、量産型エンジニアが溢れている!!ここでの量産型エンジニアの定義は以下の通りである。
比較的簡単に学習可能なWebフレームワーク(WordPress, Rails)やPython等の知識はあるが、ITの基本概念を理解していないため、単調な作業しかこなすことができないエンジニアのこと。
多くの人がフリーランスエンジニアを目指す時代に中途半端な知識や技術力でこの世界に飛び込むと返って過酷な労働条件で働くことになる。そこで、エンジニアを目指すあなたがどう学習していくべきかを私の経験を交えて書こうと思った。続きはこちらから、、、、
エンベーダー編集部
エンベーダーは、ITスクールRareTECHのインフラ学習教材として誕生しました。 「遊びながらインフラエンジニアへ」をコンセプトに、インフラへの学習ハードルを下げるツールとして運営されています。
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