はじめに
マイクロサービスとは、一言で言うと「ソフトウェアを小さな部品に分けて作る方法」です。例えるならば、会社の各部署がそれぞれ独立して機能しているようなものです。例えば、販売部門、製造部門、経理部門がそれぞれ独立して活動し、互いに必要な情報をやり取りして会社全体を運営しているイメージです。
語源
「マイクロサービス」という言葉は、「マイクロ(小さい)」と「サービス(機能や役割)」を組み合わせたものです。それぞれのサービスが独立して動作し、それぞれが特定の機能を持っています。
歴史
マイクロサービスの概念は2000年代後半に登場しました。それまでの多くのソフトウェアは、すべての機能を一つの大きな塊(モノリシック)として作っていました。この方法では、ソフトウェアが大きくなると、変更や修正が難しくなるという問題がありました。そこで、ソフトウェアを小さな部品に分けて、それぞれ独立して開発・運用できるようにするマイクロサービスが注目されるようになりました。
モノリシックアーキテクチャとは?
モノリシックアーキテクチャは、すべての機能が一つの大きなコードベース(ソースコードの集まり)として作成される方法です。例えば、ECサイトでは、商品管理、決済、ユーザー認証などのすべての機能が一つのアプリケーションとして構築されます。この方法では、コードの変更が他の部分に影響を与えやすく、開発やデプロイの速度が遅くなるという問題があります。
モノリシックアーキテクチャの限界
モノリシックアーキテクチャでは、アプリケーション全体が一つの大きなコードベースとして作成されているため、変更が他の部分に影響を及ぼしやすく、開発やデプロイの速度が遅くなる問題があります。また、一部の機能に障害が発生すると、アプリケーション全体に影響を与えるリスクもあります。マイクロサービスはこれらの問題を解決するための方法です。
このセクションのポイント
マイクロサービスとは、ソフトウェアを小さな独立した部品に分けて作ることで、各部品が独立して機能し、変更や修正がしやすくなる設計方法です。
マイクロサービスの特徴
マイクロサービスにはいくつかの重要な特徴があります。これらの特徴により、マイクロサービスは柔軟でスケーラブルなアーキテクチャスタイルとして注目されています。
アーキテクチャスタイルとは?
アーキテクチャスタイルとは、システム全体の構造や設計のパターンを指します。ソフトウェアの設計方法の一つの形式であり、どのように構成されるかを示すものです。マイクロサービスは、その一つのスタイルです。
疎結合
マイクロサービスの重要な特徴の一つは、疎結合です。疎結合とは、各サービスが独立しており、相互依存が少ないことを指します。これにより、あるサービスに変更を加えても、他のサービスに影響を与えにくくなります。例えば、ECサイトの例では、商品管理サービスを変更しても、決済サービスやユーザー認証サービスには影響を与えません。このように、各サービスが独立して機能することで、システム全体の柔軟性と拡張性が向上します。
技術的自由
マイクロサービスでは、各サービスが最適な技術スタックを選べることが重要な特徴です。異なる言語やフレームワークを使用できるため、開発チームは最適なツールを選択可能です。例えば、あるサービスではJavaを使用し、別のサービスではPythonを使用することができます。この技術的自由により、各チームは最も適した技術を用いて開発を進めることができます。
独立した開発とデプロイ
マイクロサービスのもう一つの特徴は、各サービスが独立して開発・デプロイ可能である点です。これにより、一部のサービスに変更があっても他のサービスに影響を与えにくくなります。例えば、商品管理サービスに新しい機能を追加する場合、他の決済サービスやユーザー認証サービスには影響を与えません。この独立性により、開発チームは迅速かつ効率的に作業を進めることができます。
高い可用性と耐障害性
マイクロサービスは高い可用性と耐障害性を持つことも大きな特徴です。一つのサービスに障害が発生しても、他のサービスに影響を及ぼさないため、システム全体の信頼性が向上します。例えば、決済サービスが一時的にダウンしても、商品管理やユーザー認証サービスは引き続き正常に動作します。この耐障害性により、システム全体のダウンタイムを最小限に抑えることができます。
このセクションのポイント
マイクロサービスの特徴として、疎結合、技術的自由、独立した開発とデプロイ、高い可用性と耐障害性があり、これらにより柔軟でスケーラブルなシステムを構築できることがわかります。
マイクロサービスのメリット
端的に言うと、 マイクロサービスは開発速度の向上と効率的なリソース管理を可能にします。 マイクロサービスアーキテクチャを採用することで得られるさまざまなメリットがあります。以下に、その主要なメリットを説明します。
迅速な開発サイクル
マイクロサービスでは、小さなサービスごとに変更が可能であり、迅速に市場投入することができます。各サービスが独立しているため、開発チームは特定の機能に集中して作業することができ、全体の開発サイクルが短縮されます。例えば、新しい機能を追加したり、既存の機能を改良したりする際に、他の部分に影響を与えることなく変更を加えることができます。
再利用可能なコード
マイクロサービスのもう一つのメリットは、一度作成したサービスを他の機能に再利用できることです。これにより、効率的な開発が可能になります。例えば、ユーザー認証サービスを一度作成すれば、他のアプリケーションやサービスでもそのまま利用することができます。この再利用性により、同じ機能を何度も開発する手間が省け、開発の効率が向上します。
スケーラビリティ
マイクロサービスはスケーラビリティが高いことも大きなメリットです。必要なサービスのみをスケールアップできるため、リソースの最適化が可能です。例えば、アクセスが集中する決済サービスのみをスケールアップし、他のサービスはそのままにしておくことができます。この部分的なスケールアップにより、システム全体のパフォーマンスを向上させることができます。
このセクションのポイント
マイクロサービスのメリットとして、迅速な開発サイクル、再利用可能なコード、高いスケーラビリティがあり、これらにより効率的で柔軟なシステムを構築できることがわかります。
マイクロサービスのデメリットと課題
マイクロサービスには利便性がある一方で、 管理の難しさやデータの一貫性の確保などの課題 も伴います。以下に、これらのデメリットとその解決方法を説明します。
システムの複雑性
マイクロサービスでは、複数のサービスが連携するため、全体の管理が難しくなります。この問題を解決するためには、サービス間の通信を監視し、トラブルシューティングを容易にするツールの導入が重要です。例えば、サービスメッシュ(Service Mesh)や分散トレーシングツールを使用することで、複雑なシステムの管理を改善できます。
データの一貫性の確保
各サービスが独立してデータを管理するため、データの整合性を保つのが難しいです。この課題に対する解決策としては、分散トランザクション管理や最終的な一貫性モデルを採用することが挙げられます。例えば、SagaパターンやCQRS(Command Query Responsibility Segregation)パターンを使用することで、データの一貫性を保つことが可能です。
サービス間通信のオーバーヘッド
サービス間のAPI通信がパフォーマンスに影響を及ぼす可能性があります。この問題を解決するためには、キャッシュの利用や非同期通信を導入することが有効です。例えば、Redisなどのキャッシュを使用することで、頻繁にアクセスされるデータを高速に取得することができます。
デメリットと解決方法の表
デメリット | 説明 | 解決方法 |
---|---|---|
システムの複雑性 | 複数のサービスが連携し、管理が難しい | サービスメッシュや分散トレーシングツールの導入 |
データの一貫性の確保 | 各サービスが独立してデータを管理するため、整合性が難しい | 分散トランザクション管理、Sagaパターン、CQRSパターンの採用 |
サービス間通信のオーバーヘッド | API通信がパフォーマンスに影響 | キャッシュの利用、非同期通信の導入 |
このセクションのポイント
マイクロサービスのデメリットには、システムの複雑性、データの一貫性の確保、サービス間通信のオーバーヘッドがあり、これらの課題を解決するためには適切なツールやパターンの採用が重要です。
マイクロサービスで用いられる技術
マイクロサービスアーキテクチャを実現するためには、いくつかの重要な技術が用いられます。このセクションでは、マイクロサービスでよく使用される主要な技術について説明します。
コンテナとオーケストレーション
マイクロサービスのデプロイと管理には、コンテナ技術が非常に重要です。コンテナ化することで、サービスの独立性を保ちつつ、一貫した環境で動作させることができます。
Docker
各マイクロサービスをコンテナとしてパッケージ化し、軽量な仮想化環境で動作させるための技術です。
Dockerについてはこちらで解説しています。
https://envader.plus/article/325
Kubernetes
コンテナ化されたマイクロサービスのデプロイ、スケーリング、管理を自動化するためのオーケストレーションツールです。
Kubernetesについてはこちらで解説しています。
https://envader.plus/article/303
APIゲートウェイ
マイクロサービス間の通信を管理するために、APIゲートウェイが使用されます。APIゲートウェイは、クライアントのリクエストを適切なマイクロサービスにルーティングし、認証や監視、負荷分散などの機能を提供します。
NGINX
高性能なリバースプロキシサーバーとして、APIゲートウェイの役割を果たすことができます。
Kong
プラグインベースのAPIゲートウェイで、認証、ログ、モニタリングなどの機能を提供します。
サービスメッシュ
サービスメッシュは、マイクロサービス間の通信を管理し、信頼性やセキュリティを向上させるためのインフラストラクチャです。各サービス間の通信をプロキシ経由で行い、詳細な監視や制御が可能になります。
Istio
オープンソースのサービスメッシュで、トラフィック管理、セキュリティ、監視などの機能を提供します。
Linkerd
軽量なサービスメッシュで、簡単にデプロイでき、トラフィックの管理やセキュリティを強化します。
モニタリングとログ管理
マイクロサービスの運用を支えるために、モニタリングとログ管理は欠かせません。各サービスのパフォーマンスやエラーログを集約し、リアルタイムで監視することで、問題の早期発見と解決が可能になります。
Prometheus
オープンソースのモニタリングシステムで、メトリクスの収集やアラート機能を提供します。
Grafana
データの可視化ツールで、Prometheusや他のデータソースと連携して、ダッシュボードを作成します。
Elasticsearch
分散型の検索エンジンで、ログデータのインデックス作成と検索を高速に行います。
Kibana
Elasticsearchと連携して、ログデータの可視化と分析を行います。
データ管理
マイクロサービスアーキテクチャでは、各サービスが独自のデータベースを持つことが一般的です。これにより、サービス間のデータ依存を減らし、スケーラビリティと独立性を向上させます。
PostgreSQL
高機能なリレーショナルデータベースで、データの整合性を保ちながらスケーラブルな環境を提供します。
MongoDB
NoSQLデータベースで、柔軟なデータモデルを持ち、スケーラビリティが高いです。
Redis
インメモリデータベースで、キャッシュやセッション管理に適しています。
このセクションのポイント
ここでは、マイクロサービスを実現するために必要な技術について学びました。コンテナとオーケストレーション、APIゲートウェイ、サービスメッシュ、モニタリングとログ管理、データ管理といった技術が、マイクロサービスアーキテクチャの基盤を支えています。
実際の事例
ここでは、実際にマイクロサービスがどのように活用されているかを具体的な例を通じて見ていきましょう。理論だけでなく、現実のアプリケーションにどのように適用されているかを知ることで、より実践的な理解が深まります。
ECサイトの例
ECサイトを構築する場合、商品管理、決済、受注管理、顧客管理、配送などの各機能をマイクロサービスとして実装することが考えられます。例えば、商品管理サービスは商品の追加や在庫管理を行い、決済サービスはクレジットカードや電子マネーによる支払いを処理します。これらのサービスはそれぞれ独立して動作し、APIを通じて連携します。このように各機能を分離することで、特定の機能に変更が必要な場合でも、他の機能に影響を与えずに迅速に対応することができます。
企業の導入事例
マイクロサービスを導入して成功している企業のケーススタディを紹介します。以下に、いくつかの具体例を挙げます。
Amazon
各部門の機能をマイクロサービスとして独立させることで、サービスの迅速な開発とデプロイを実現しています。Amazonは2000年代初頭にモノリシックアーキテクチャからマイクロサービスアーキテクチャに移行し、現在では数千ものマイクロサービスが稼働しています。
Netflix
膨大なコンテンツ配信を効率的に管理するためにマイクロサービスを活用し、高い可用性と耐障害性を確保しています。Netflixは、ストリーミングサービスのスケーラビリティを向上させるためにマイクロサービスを採用し、各サービスが独立して運用されています。
このセクションのポイント
マイクロサービスが具体的にどのように活用されているかを学びました。特に以下の点を覚えておきましょう。
- ECサイトの構成要素をマイクロサービスとして分割することで、各機能が独立して動作し、迅速な変更が可能であること。
- 実際の企業がどのようにマイクロサービスを活用しているかを知ることで、実践的な応用方法を学ぶこと。
改めてマイクロサービスとは?
マイクロサービスとは、一言で言うと「ソフトウェアを小さな独立したサービスに分け、それぞれが特定の機能を持ち、APIを通じて通信するアーキテクチャスタイル」です。
学んだこと
マイクロサービスの基本概念として、ソフトウェアを小さな独立したサービスに分け、それぞれが特定の機能を持ち、APIを通じて通信するアーキテクチャスタイルであることを理解しました。これにより、技術的自由、独立した開発とデプロイ、高い可用性と耐障害性といった特徴が得られます。
マイクロサービスのメリットとしては、迅速な開発サイクル、再利用可能なコード、高いスケーラビリティが挙げられます。一方で、システムの複雑性、データの一貫性の確保、サービス間通信のオーバーヘッドといった課題も存在することを学びました。
実際の事例として、ECサイトの各機能をマイクロサービスとして実装する例や、AmazonやNetflixの導入事例を通じて、具体的な運用方法とその効果を知ることができました。
学んだことの活かし方
今回学んだマイクロサービスの知識は、自分のプロジェクトに適用することで開発の効率化やシステムのスケーラビリティ向上に役立ちます。具体的には、各サービスが独立して開発・デプロイできるため、チーム内での分業がしやすくなり、開発スピードが向上します。また、各サービスが独立しているため、一部の障害がシステム全体に影響を与えにくくなり、システムの耐障害性が向上します。
参考資料
【番外編】USBも知らなかった私が独学でプログラミングを勉強してGAFAに入社するまでの話
プログラミング塾に半年通えば、一人前になれると思っているあなた。それ、勘違いですよ。「なぜ間違いなの?」「正しい勉強法とは何なの?」ITを学び始める全ての人に知って欲しい。そう思って書きました。是非読んでみてください。
「フリーランスエンジニア」
近年やっと世間に浸透した言葉だ。ひと昔まえ、終身雇用は当たり前で、大企業に就職することは一種のステータスだった。しかし、そんな時代も終わり「優秀な人材は転職する」ことが当たり前の時代となる。フリーランスエンジニアに高価値が付く現在、ネットを見ると「未経験でも年収400万以上」などと書いてある。これに釣られて、多くの人がフリーランスになろうとITの世界に入ってきている。私もその中の1人だ。数年前、USBも知らない状態からITの世界に没入し、そこから約2年間、毎日勉学を行なった。他人の何十倍も努力した。そして、企業研修やIT塾で数多くの受講生の指導経験も得た。そこで私は、伸びるエンジニアとそうでないエンジニアをたくさん見てきた。そして、稼げるエンジニア、稼げないエンジニアを見てきた。
「成功する人とそうでない人の違いは何か?」
私が出した答えは、「量産型エンジニアか否か」である。今のエンジニア市場には、量産型エンジニアが溢れている!!ここでの量産型エンジニアの定義は以下の通りである。
比較的簡単に学習可能なWebフレームワーク(WordPress, Rails)やPython等の知識はあるが、ITの基本概念を理解していないため、単調な作業しかこなすことができないエンジニアのこと。
多くの人がフリーランスエンジニアを目指す時代に中途半端な知識や技術力でこの世界に飛び込むと返って過酷な労働条件で働くことになる。そこで、エンジニアを目指すあなたがどう学習していくべきかを私の経験を交えて書こうと思った。続きはこちらから、、、、
エンベーダー編集部
エンベーダーは、ITスクールRareTECHのインフラ学習教材として誕生しました。 「遊びながらインフラエンジニアへ」をコンセプトに、インフラへの学習ハードルを下げるツールとして運営されています。
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